専門家解説 #推進リーダー #社内講師 #社内勉強会 #内製化

生成AI社内推進リーダー・社内講師の育成―― 内製化を成功させる型

公開日 読了時間 約14分 執筆 代表取締役 橋本 カテゴリ 専門家解説
推進リーダーを起点にした生成AI内製化の展開イメージ
※ 本記事のアイキャッチ:推進リーダーを起点にした生成AI内製化の展開イメージ

「生成AIの活用は、外部に頼らずまず自社でやってみたい」——これは商談の場で私たちが最もよく聞く方針であり、実は、最も高い確率で行き詰まる方針でもあります。

誤解のないように先に書くと、内製化そのものは正しい方向です。社内に推進役が育ち、勉強会が自走し、ノウハウが社内に蓄積される状態は、外部研修を受け続けるより明らかに強い。問題は「内製化したい」と「内製化できる」の間にある距離です。推進担当が通常業務と兼務のまま、教材づくり・勉強会運営・社内の質問対応をすべて抱え、2〜3ヶ月で活動が止まる——この典型パターンを、私たちは商談を通じて何度も見てきました。

結論から言えば、内製化の成否は「推進リーダーという役割を、属人的な熱意ではなく再現可能な型として設計できるか」で決まります。この記事では、社内勉強会の運営の型、推進リーダー・社内講師に必要なスキルとその育て方、そして「どこまで自社でやり、どこだけ外部を使うか」の線引きまでを、そのまま社内で実行できる粒度で解説します。

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TL;DR / この記事の要点
  • 「まず自社でやってみる」が失敗するのは、内製化が悪いからではなく、推進役の負荷設計をせずに始めるから。兼務1名への丸投げはほぼ確実に止まる
  • 成功パターンは「選抜された推進リーダー数名+運営の型+初期だけ外部支援」のハイブリッド。ノウハウは社内に残しつつ、時間のかかる立ち上げだけ外部を使う
  • 社内勉強会は「月1回・60分・実業務の持ち込み形式」が続く型。全6回のカリキュラムと初回アジェンダをそのまま使える形で本文に掲載した
  • 推進リーダーに必要なのはAIの専門知識ではなく、①自業務での実践力 ②事例の言語化力 ③質問の切り分け力 ④巻き込み力の4つ
  • 社内講師の育成は「教材づくり」より「デモと質問対応の練習」に時間を割く。研修の失敗は内容ではなく運びで起きる

※本記事の内容は2026年8月時点の情報です。

「まず自社でやってみる」が失敗しやすい理由

内製での推進が止まる企業には、共通の構造があります。担当者の能力の問題ではなく、設計の問題です。

止まるパターン現場で起きていること設計上の欠陥
兼務1名への丸投げ詳しい社員が指名されるが、通常業務が忙しくなると活動が消える工数が確保されておらず、優先順位で必ず負ける
教材づくりで力尽きる資料作成に1〜2ヶ月かけ、完成した頃には熱が冷めているゼロから作る前提。既にある型の活用を検討していない
勉強会が3回で終わる初回は盛況、2回目は半分、3回目で自然消滅「続く形式」の設計がなく、ネタ切れと集客疲れで止まる
質問対応で潰れる「これどうやるの」が推進役に集中し、本人が疲弊一次対応の分散(部門ごとの当番制)がない
成果を示せず打ち切り経営層に活動報告を求められ、参加人数しか言えない利用率・削減時間などの物差しを最初に決めていない

この表で最も重要なのは、5つのパターンすべてが開始前に潰せるということです。工数の確保、型の調達、続く形式、当番制、物差しの設定——いずれも始めてからの根性論ではなく、始める前の設計項目です。特に工数については、推進リーダーの活動時間を業務時間の10〜20%として公式に確保し、上長の評価項目に含めることを強く推奨します。「業務の合間にやってね」という非公式な依頼は、繁忙期が来た瞬間に消滅します。

もうひとつ付け加えると、「まず自社でやってみて、ダメなら外部を使う」という順序は、実際にはほとんど機能しません。止まった頃には担当者が疲弊し、社内には「うちではAIは広がらない」という空気が残るため、外部を使う判断そのものができなくなるからです。使うなら最初の設計段階、が鉄則です。

成功する内製化の形:推進リーダーを起点にした展開

うまくいっている企業の内製化は、例外なく「全員一斉」ではなく「少数の推進リーダーを起点にした段階展開」の形をとっています。

FIG.1 / 推進リーダーを起点にした3段階の社内展開

STAGE 01

選抜

部門を横断して5〜10名の推進リーダーを選ぶ。基準は「AIに詳しい」ではなく「自分の業務を言語化でき、部門で話を聞いてもらえる」。

STAGE 02

自業務での実践

リーダー自身がまず自分の業務で成果を出す。最初の30日で3業務に適用し、削減時間を言える状態にする。

STAGE 03

部門への展開

その実例を教材にして各部門へ広げる。リーダー1名のカバー範囲は20〜30名が現実的。

推進リーダー 5〜10名300名規模ならリーダー10名前後
図解①推進リーダーを起点にした3段階の社内展開

具体的には、①部門を横断して5〜10名の推進リーダーを選抜し、②リーダー自身がまず自業務で成果を出し、③その実例を教材にして各部門へ広げる、という3段階です。リーダー1名がカバーする範囲は20〜30名程度が現実的で、300名規模の会社なら10名前後のリーダーが必要になる計算です。

なぜ全員一斉ではなくリーダー起点なのか。全員一斉の研修は一時的に知識の底上げはできますが、研修後に各部門で「続けさせる人」がいなければ、利用は数週間で研修前の水準に戻ります。逆にリーダーが部門にいれば、日々の業務の中で「その資料、AIで下書きすれば早いですよ」という声かけが発生し続けます。定着は研修ではなく、日常の中の小さな介入の積み重ねで起きる——だからこそ、その介入を行う人を先に育てるのです。

リーダーの選抜基準は「AIに詳しい人」ではありません。自分の業務を言語化でき、部門内で話を聞いてもらえる人です。ITスキルは研修で身につきますが、この2つは研修では作れないからです。もう1点、可能なら各部門から必ず1名は出してもらい、「推進チームはIT部門の集まり」に見えないようにします。現場部門のリーダーがいるかどうかで、その部門の巻き込みやすさは大きく変わります。誰を選ぶかの考え方は、全社展開の設計とあわせて生成AI導入・社内定着の完全ガイドでも解説しています。

社内勉強会のやり方:続く運営の型

内製推進の中心となるのが社内勉強会です。続かない勉強会と続く勉強会の差は、内容ではなく形式にあります。推奨の型は「月1回・60分・実業務の持ち込み形式」。講義形式ではなく、参加者が自分の業務を持ち込んで手を動かす場にします。

全6回の標準カリキュラムを示します。そのまま使って構いません。

テーマ持ち込むもの
第1回基本操作と「自分の業務のどこで使うか」の発見今週やった業務のリスト
第2回文章業務(メール・報告書・議事録)への適用実際に書いたメール・文書
第3回資料作成(構成案・要約・スライド骨子)作成中の資料
第4回情報整理(要約・比較・調査の下ごしらえ)調べ物を伴う業務
第5回部門特化回(営業・経理など部門の実業務で演習)部門の定型業務
第6回成果の棚卸しと、次の6ヶ月の計画づくり各自の活用事例

初回のアジェンダも型にしておきます。コピペしてカレンダー招待にそのまま貼ってください。

AGENDA■ 社内生成AI勉強会 第1回(60分)アジェンダ
1. この勉強会の目的とルール(5分)
   - 「触ったことがない」前提でOK/失敗事例ほど歓迎
2. 基本操作のデモ(10分)
   - 講師が自分の実業務でその場で使ってみせる
3. ハンズオン:自分の業務で試す(30分)
   - 持ち込んだ業務リストから1つ選び、実際に指示を出す
   - 講師と当番は机間サポート(答えを教えず、指示の直し方を促す)
4. 共有:やってみた結果(10分)
   - うまくいった人・いかなかった人を各2名
5. 次回までの宿題(5分)
   - 「業務で1回使って、結果をチャットに投稿」

運営のコツは3つ。録画して欠席者に共有する(参加率のプレッシャーを下げる)、うまくいかなかった事例を必ず扱う(成功自慢の場にすると人が来なくなる)、宿題は投稿1件だけにする(重い宿題は2回目の欠席理由になる)。

参加者集めにも型があります。初回は「希望者」ではなく部門推薦で各部門2〜3名を集めてください。希望制にすると元々関心の高い層しか来ず、2回目以降に広がりません。また、案内文には「AIの勉強会」ではなく「◯◯業務を早く終わらせる会」のように業務の言葉を使うこと。AIという言葉自体が「自分には関係ない」と思わせるハードルになっている職場は少なくありません。勉強会と並行して、利用ルールの整備も進めておくと安心です。作り方は生成AI利用ガイドラインの作り方を参照してください。

推進リーダーに必要な4つのスキル

推進リーダーの役割は「AIの先生」ではなく「社内で最初に成果を出し、その道筋を再現可能にする人」です。必要なスキルは4つに整理できます。

スキル中身育て方
①自業務での実践力自分の業務で週次でAIを使い、削減時間を言える最初の30日で自業務の3業務に適用する課題を課す
②事例の言語化力「どの業務で・どう指示して・何分短縮」の型で語れる勉強会の共有パートを毎回担当させる
③質問の切り分け力「ツールの問題か、指示の問題か、業務設計の問題か」を判別できるよくある質問30問への回答練習(外部研修が効率的な領域)
④巻き込み力消極的な同僚を責めずに一歩目を設計できる部門ごとの温度差を前提にした声かけの型を持つ

このうち①②は社内で育ちますが、③は体系的な練習なしには身につきにくい領域です。質問対応が属人的な「なんとなくの助言」になると、リーダーごとに言うことが違い、現場が混乱します。

もうひとつ見落とされがちなのが、リーダー本人のモチベーション設計です。推進活動は「便利屋」扱いになると急速に消耗します。対策はシンプルで、役割を辞令や社内公示で公式化する(肩書があるだけで動きやすさが変わる)、活動成果を人事評価に反映するリーダー同士の横のつながり(月1回の定例)を作るの3つです。とくに横のつながりは、部門で孤立しがちなリーダーの継続率に直結します。

社内講師の育て方:教材より「運び」に時間を割く

勉強会や社内研修の講師を内製する場合、多くの企業が教材づくりに時間をかけすぎ、デモと質問対応の練習を省略します。しかし研修の失敗は内容ではなく運びで起きます。講師育成は次の3点に絞ってください。

① 自分の実業務でのライブデモ

借り物のデモ(有名な例題)は説得力がありません。講師自身の昨日のメール、今週の資料でその場で使ってみせる練習をします。失敗しても「指示をこう直す」まで見せれば、それ自体が最良の教材になります。

② 質問対応のロールプレイ

「入力していい情報はどこまで?」「ExcelでうまくいかないのはなぜAI?」など頻出質問30問を洗い出し、回答を声に出して練習します。ここで答えに詰まると講師への信頼が一気に下がるため、最も投資対効果の高い練習です。

③ つまずきの翻訳

受講者の「うまくいかない」を、ツール・指示・業務設計のどれの問題かに切り分けて返す練習です。前章のスキル③と同じものであり、講師と推進リーダーを同じ人材が兼ねる場合が多いのはこのためです。

なお、講師育成を含む研修の内製化は、情報システム部門が主導するケースも増えています。情シス主体で進める場合は情シス向け生成AI研修もあわせてご覧ください。Microsoft 365 Copilotが社内の中心ツールになっている環境では、講師の演習題材もアプリ別に組み替える必要があります。その場合はCopilot研修(法人向け)のカリキュラム設計を分岐として参照してください。

どこまで内製し、どこだけ外部を使うか

最後に費用対効果の話をします。選択肢は「全部内製」「全部外部」の二択ではありません。

FIG.2 / 内製・ハイブリッド・外部研修の比較

PATTERN A

全部内製

専任の推進担当を置ける企業向け。すべて社内に残るが、止まるリスクが最も大きい。

蓄積負荷×
PATTERN B / 推奨

ハイブリッド(立ち上げのみ外部)

兼務体制で進める大半の企業向け。型ごと社内に移転され、立ち上げの山は外部が吸収する。

蓄積負荷
PATTERN C

全部外部(研修を受け続ける)

短期集中で底上げしたい企業向け。負荷は低いが、ノウハウが社内に残りにくい。

蓄積負荷
外部費用は立ち上げ期に集中2巡目以降は社内工数のみ
図解②内製・ハイブリッド・外部研修の比較
進め方ノウハウの蓄積推進担当の負荷向いている企業
全部内製◎ 全て社内に残る× 極めて高い。止まるリスク大専任の推進担当を置ける企業
ハイブリッド(立ち上げのみ外部)○ 型ごと社内に移転される○ 立ち上げの山を外部が吸収兼務体制で進める大半の企業
全部外部(研修を受け続ける)△ 社内に残りにくい◎ 低い短期集中で底上げしたい企業

ハイブリッドの具体像は、初回の勉強会設計・教材の型・リーダー向け研修・頻出質問集の整備までを外部と一緒に作り、2巡目からは社内で回すという形です。外部費用は立ち上げ期に集中して終わり、以降の運営コストは社内工数だけになります。リーダー研修は要件を満たせば人材開発支援助成金の対象になり得るため、生成AI研修に使える助成金ガイドも確認してください。

どの進め方を選ぶにせよ、活動の物差しは最初に決めてください。推進活動のKPIは①勉強会の継続回数と参加率、②対象部門の利用率(週1回以上使う人の割合)、③蓄積された事例・プロンプトの本数の3つで十分です。参加人数だけを報告する活動は、経営層から見ると成果が判断できず、予算の打ち切り対象になります。逆にこの3つを毎月同じ形式で報告していれば、活動の継続も次の投資も格段に通りやすくなります。

カトルセの法人向け生成AI研修では、この「推進リーダー・社内講師の育成」をメニューとして提供しており、立ち上げ後の月次伴走はAI顧問が引き継ぐ設計です。

まとめ

  • 内製化は正しい。失敗するのは「兼務1名への丸投げ」という設計であり、方針そのものではない
  • 成功の型は「推進リーダー5〜10名の選抜+月1回60分・持ち込み形式の勉強会+立ち上げのみ外部」のハイブリッド
  • リーダー育成は自業務での実践30日+運営練習を含む90日設計。教材づくりより「デモと質問対応の運び」に投資し、活動は継続回数・利用率・事例本数の3点で毎月報告する

「自社でやりたい。でも止まりそうで不安」——その段階のご相談が、実は最も良いタイミングです。カトルセは法人向け生成AI研修の一環として推進リーダー・社内講師の育成を、立ち上げ後の伴走はAI顧問で支援しています。

※本記事は2026年8月時点の情報に基づいています。

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FAQ / よくある質問

よくある質問

Q1. 社内のAI勉強会は何から始めればいいですか?
教材づくりからではなく「形式を決める」ことからです。月1回・60分・実業務の持ち込み形式で日程を6回分先に確保し、本文のカリキュラムとアジェンダをそのまま使って初回を開いてください。完璧な資料より、続く形式が先です。
Q2. 推進リーダーは誰を選べばいいですか?何人必要ですか?
「AIに詳しい人」ではなく「自分の業務を言語化でき、部門で話を聞いてもらえる人」を選びます。目安はリーダー1名につきカバー範囲20〜30名。100名の会社なら4〜5名、300名なら10名前後です。
Q3. 講師やリーダーの育成にはどれくらいの期間がかかりますか?
自業務での実践に30日、勉強会運営と質問対応の練習を含めて約90日で「自走できる状態」が目安です。座学だけなら数日で済みますが、それでは実践力と質問対応力が育たないため、実務と並走する90日設計をおすすめします。
Q4. 外部研修を受けさせるのと内製化支援では、どちらが安上がりですか?
単年で見れば外部研修の方が安いこともありますが、毎年の受講費が続きます。内製化支援は立ち上げ期に費用が集中する代わり、2巡目以降は社内工数のみで回るため、継続的に取り組むなら総額で逆転するのが一般的です。
Q5. 「生成AIの内製化支援」とは、具体的に何をしてもらえるのですか?
会社によって幅がありますが、カトルセの場合は①推進リーダーの選抜設計、②リーダー・講師向け研修、③勉強会・教材の型の提供と初回の共同運営、④頻出質問集の整備、⑤利用率などの効果測定設計までが標準的な範囲です。「代わりにやる」のではなく「型を社内に移転する」ことが目的です。
Q6. 勉強会が続かず自然消滅してしまいました。立て直せますか?
立て直せます。多くの場合、原因は熱意ではなく形式(講義形式・重い宿題・成功事例のみの共有)にあります。本文の「続く型」に形式を変えて再開し、最初の2回だけ外部講師を入れて仕切り直すと、再出発の空気が作りやすくなります。
SUPERVISOR / 監修者

この記事の監修者

K.H

橋本 健太郎

株式会社カトルセ 代表取締役

生成AI研修・AI開発・AI顧問・PM/PMO支援を提供。累計2,000名以上のAI研修を支援し、大手企業の生成AI活用、Dify/RAG/AIエージェント導入、業務改善プロジェクトに携わる。実務に直結する「使えるAI活用」を一貫して伝えている。

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カトルセの支援サービス

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カトルセは推進リーダー・社内講師の育成から、勉強会の型づくり、立ち上げ後の月次伴走までを支援します。累計2,000名以上の研修実績をもとに、御社の体制に合う内製化の設計をご提案します。