専門家解説#FDE#業務側FDE#非エンジニア#AI人材育成

業務側FDEとは?非エンジニアから育てる方法と3か月の道筋

公開日 / 最終更新 / 読了時間 約24分/ 執筆 代表取締役 橋本/ カテゴリ 専門家解説
業務側FDEと技術側が2人1組で、業務へのAIの組み込みを分担する図

「エンジニアがいない。採ろうにも採れない。それなら業務部門の人を、AIを現場に実装できる人に育てられないか」。業務側FDEの育成について、こうしたご相談を事業会社の部門長やDX推進・人事のご担当者、中堅中小企業の経営者から多くいただきます。「生成AIのアカウントは全社に配ったが、業務の手順は何も変わっていない」という声も、同じくらいよく聞きます。

結論から言えば、育てられます。ただし目指すのは、エンジニアへの転身ではありません。自部署の業務を一番よく知る立場から、業務課題の整理、AIで解ける形への分解、現場への定着、効果の測定と改善を受け持つ「業務側FDE」です。試作はノーコード・ローコードの範囲で自分で行い、本番運用の設計やシステムの連携は、社内の情シスや外部と組んで進めます。すべてを1人でこなすFDEを探すより、この分担のほうが中堅中小企業では現実的です。

この記事では、業務側FDEの役割と技術側・外部との分担、向いている人の選び方、身につけるスキルと道具、研修から3か月で自部署に1つ実装するまでの道筋、つまずきやすい壁と評価の考え方までを解説します。会社全体のFDE育成の設計は「企業のFDE育成の進め方」で扱っています。

候補者と部署の「いまの位置」を先に測りたい方へ

業務側FDEの候補を選ぶ前に、本人と組織が生成AIをどこまで業務に使えているかを確かめておくと、研修の出発点と最初に任せる業務を決めやすくなります。10の質問・約2分・無料で、組織の現在地が分かります

この記事の要点(TL;DR)
  • 業務側FDEは、Palantirで技術側のFDE(Delta)と2人1組で動くDeployment Strategist(Echo)に当たる役割です。中堅中小企業では、業務部門の人が自部署で担う形が現実的です。
  • FDEの6つの役割のうち、業務側FDEが主に持つのは①業務課題の整理 ②AIで解ける形への分解 ⑤現場への定着 ⑥効果の測定と改善です。③試作はノーコード・ローコードの範囲で担い、④本番運用の設計は技術側・外部と組みます。
  • 向いているのは、現場の業務を一番知っていて、手順を言葉にでき、kintone・GAS・RPA・Excelマクロなどで業務改善をしてきた、周りに頼られている人です。「ITに詳しい若手だから」だけで選ぶと止まります。
  • 育成は3か月を1区切りにし、研修→自部署で小さく1つ実装→横展開→効果測定と進めます。続くかどうかは研修後90日の運用で決まります。
  • 評価は満足度ではなく業務の変化(処理時間、本番運用に乗った業務の数、利用率など)で行い、上長が育成の時間を業務として確保します。

業務側FDEとは:Deployment Strategistに当たる「業務を知る側」のFDE

FDE(Forward Deployed Engineer=現場実装型エンジニア)は、AIを作る人ではなく、AIを現場で使える状態にする人です。カトルセでは、FDEの役割を①業務課題の整理 ②AIで解ける形への分解 ③素早い試作 ④本番運用の設計 ⑤現場への定着 ⑥効果の測定と改善の6つに分けて考えています。

この6つを1人で全部こなせる人は、どの会社にも多くはいません。FDEという職種を生んだ米Palantirも、技術側と業務側の2人1組で顧客の現場に入る形をとってきました。遅くとも2009年にはFDEの肩書きを使っていた同社では、本番品質のコードを書く技術側を社内で「Delta」、業務側のDeployment Strategistを「Echo」と呼びます。Echoの多くはソフトウェアエンジニアではなく、元軍人・元臨床医・元フォレンジック会計士など業務に通じた人で、現場の実情を技術の要件に翻訳し、導入したものが使われることに責任を持つと紹介されています。

この組み方は、いまのAI企業にも引き継がれています。OpenAIが2026年5月11日に設立した「OpenAI Deployment Company」は、FDEとDeployment Specialistを合わせて150人の体制で始まりました。国内では、2025年7月にFDEの募集を始めたLayerXが、業務側のDeployment Strategist(DS)とFDEをペアにし、DSを担当領域の「CPO」、FDEを「CTO」にたとえて役割を分けています。

この記事で言う業務側FDEは、このDeployment Strategistの役割を、社内の業務部門の人が自部署で担う形を指します。ベンダーの社員が顧客の現場に入る海外のFDEとは立場が違いますが、「業務を知る側が、AIが使われる状態まで責任を持つ」という中身は同じです。FDEの定義と起源は「FDEとは?現場実装型エンジニアの役割」で、海外のAI企業の動きは「AnthropicやOpenAIのFDEの動向」で解説しています。

中堅中小企業では「業務側から育てる」が現実的な理由

FDEは採用で確保するのが難しい職種です。FDEの肩書きが付いた国内の求人は、2026年の調査で35〜100件規模でした(集計の定義によって幅があります)。一方で日立製作所は、国内のFDEを2026年7月時点の約300人から2026年度末に約1,000人へ増やすとしています。大手が数百人単位でFDEを増やそうとしている市場で、中堅中小企業がFDEを外から採るのは簡単ではありません(採用の選択肢は「FDEを採用できない企業の3つの選択肢」で比べています)。

IPA(情報処理推進機構)の「DX動向2025」では、DXを推進する人材が量的に不足していると答えた日本企業は85.1%で、米国の23.8%、ドイツの44.6%を大きく上回りました。帝国データバンクの2026年3月の調査では、生成AIを業務で活用している企業は34.5%で、懸念・課題は「情報の正確性」(50.4%)に続いて「専門人材・ノウハウ不足」「活用すべき業務の範囲」が上位に並んでいます。

生成AIを使い始めた企業では、「成果が出ない」という悩みも目立ちます。PwC Japanの「生成AIに関する実態調査2026 春」では、日本企業の生成AIの活用・推進度は87%に達したのに、期待を大きく上回る効果が出た企業は9%で、米国の38%と大きな差がありました。ツールは入ったのに、業務の手順にはまだ組み込まれていないのです。

どの業務にAIを入れ、どう使われる状態にするかは、業務を知る人でなければ決められません。だから中堅中小企業では、エンジニアを採ってから業務を教えるより、業務部門の人を業務側FDEに育て、技術の部分を情シスや外部と分担するほうが早く進みます。TechTargetジャパンも2026年9月28日の記事で、事業会社の情シスが現場の課題発見から実装までを担い、得た知見を全社に広げる「事業会社型FDE」という働き方を取り上げました。社内FDEを非エンジニアから育てる動きは、すでに始まっています。

社内のAI推進リーダーとの違い

業務部門のAI推進人材には、似た役割があります。「社内AI推進リーダー」や「社内講師」は、全社に使い方を広げ、利用者を増やす役割です。業務側FDEは、特定の業務にAIを組み込み、その業務の手順と成果が変わるところまでを受け持ちます。兼ねることもありますが、評価の物差しは分けます。社内推進リーダーの育て方は「生成AI社内推進リーダー・社内講師の育成」で扱っています。

業務側FDEが担う役割:6つのうちどこまでを自分で持つか

業務側FDEは6つの役割をすべて持つわけではなく、業務を知っていることが効く役割を主に持ち、技術の判断が要る役割は技術側と組んで進めます。

FDEの6つの役割のうち、業務側FDEが主に担う役割と技術側と組む役割の区分け
FIG.1業務側FDEが担う役割
FDEの役割業務側FDEの関わり方具体的な仕事の例残す成果物
①業務課題の整理主担当自部署の業務を棚卸しし、時間・手戻り・属人化が大きい業務を選ぶ業務の一覧と、時間・頻度の記録
②AIで解ける形への分解主担当業務を手順に分け、AIに任せる部分と人が判断する部分を決める業務の分解シート、AIへの指示書
③素早い試作範囲を決めて担当生成AIツール、Difyなどのワークフロー、Claude Codeなどで小さな自動化を作る試作品と、試した結果の記録
④本番運用の設計技術側・外部と組む権限・データの置き場所・費用の上限・障害時の対応を技術側と決める運用ルール(技術側が設計し、業務側が確認)
⑤現場への定着主担当手順書を書き、部署のメンバーに使い方を教え、使われ方を見て直す運用手順書、問い合わせの記録
⑥効果の測定と改善主担当導入前後の処理時間や手戻りを比べ、次に直す点を決める効果の記録、次のテーマ

③は範囲を決めて担います。業務側FDEが自分で作ってよいのは、失敗しても業務が止まらず、データが部署の中で閉じているもの(問い合わせメールの分類と返信の下書き、表計算の集計と転記など)までにします。顧客の個人情報を扱う、基幹システムに書き込む、社外に自動で送信する、といったものは、本番に出す前に必ず技術側の確認を通します。

④を持たないのは、能力ではなく責任の置き場所の問題です。権限、ログ、データの保管場所は、会社全体の情報セキュリティの方針と結び付いています。業務側FDEは「誰が、どのデータを、どこまで見てよいか」を業務の言葉で示し、それをシステムの設定に落とすのは技術側が行います。

技術側・外部との分担:業務側FDEが一人で抱えないこと

業務側FDEを育てても、技術側の相手がいなければ試作から先に進みません。社内の情シスやエンジニア、いなければ外部の伴走で、技術側の役割を必ず確保します。

仕事業務側FDE技術側(情シス・社内エンジニア)外部(伴走・開発会社)
対象業務の選定と優先順位決める実現の難しさを助言する他社の例をもとに助言する
業務の分解・要件の言語化書く技術の言葉に直す書き方を指導する
試作(ノーコード・小さな自動化)作る使ってよい道具と範囲を決める作り方を教え、詰まった所を解く
システム連携・本番環境の構築要件を出す作る・管理する社内にいなければ作る
権限・セキュリティ・費用の管理業務上の条件を示す設計し、承認する設計を助言する
現場への定着・手順書書き、教える技術面の注意を足す型を提供する

カトルセ自身の例を挙げます。当社は営業管理のCRM(顧客管理システム)を Claude Code で開発・運用しています。機能の実装やテストはAIエージェントに任せ、人は指示書の整備とレビュー、本番に出すかどうかの判断に責任を持ちます。運用して分かったのは、成果を左右するのが、AIに渡す指示書の質と、出てきたものが業務に合っているかの判断だということです。どの画面で誰が困っているのか、どの数字が合わなければ使われなくなるのかは、業務を知る人にしか書けません。業務側FDEが担うのは、まさにこの「指示書を書き、結果を確かめ、出すかどうかを決める」判断です。コードを書く作業はAIや技術側に任せられても、この判断は人に残ります。

社内に技術側がいない場合は、外部の伴走に技術側の席を埋めてもらいます。カトルセでは、AI顧問・定着支援(ライト月30万円/スタンダード月50万円/プレミアム月75万円〜)を研修後の実装と定着の伴走に、生成AI開発を本番システムへの実装に充てています。ただし、外部に任せきりにすると社内にノウハウが残らないため、判断は業務側FDEが持ち続けます。外部のFDEを入れるときの契約の注意点は「FDEとSES・派遣・準委任の違い」で解説しています。

業務側FDEに向いている人:4つの条件と、選んではいけない選び方

人選で最初に見るのは、AIの知識ではありません。業務を知っていること、それを言葉にできること、周りが動いてくれることです。

条件なぜ効くか見極め方
現場の業務を一番知っているどの業務にAIを入れるべきか、どこで例外が起きるかを判断できる例外処理や「暗黙のルール」を具体的に説明できるか
手順を言葉にできるAIへの指示書と運用手順書は、手順を文章にする仕事そのもの自分の業務を、他部署の人に通じる手順書で書けるか
kintone・GAS・RPA・Excelマクロなどで業務改善をしてきた道具は違っても、「手作業を仕組みに置き換える」考え方は同じ過去に自分で作った仕組みが、いまも使われているか
周りに頼られている定着は、部署のメンバーが使ってくれるかどうかで決まる「困ったらあの人に聞く」と名前が挙がるか

4つ目の条件は見落とされがちです。作ったものを使うのは部署のメンバーで、「あの人が言うなら試してみよう」と思われる人を選ぶと、定着が進みやすくなります。候補になりやすいのは、情シスやDX推進で社内の業務改善を一人で回してきた人、経理・人事・総務・営業事務などの現場を長く知る人、生成AIを日々の業務で使い込んでいる人です。プログラミングの経験は条件に入れていません。

選んではいけない選び方

  • 「ITに詳しい若手だから」で選ぶ:ツールの操作は早くても、業務の例外や部署の事情が分からないと、使われない仕組みができます。
  • 「手が空いている人」を選ぶ:手が空いている人は、部署の中心業務から離れていることが多く、効く業務を選べません。
  • 本人の業務量を減らさずに任命する:育成の時間が真っ先に削られます。
  • 部署の外の人に任せる:現場の協力を得にくくなります。最初は自部署から始めます。
  • 1人だけを任命して放置する:相談相手がいないと、技術や権限の壁で止まったまま孤立します。

候補者との面談では、次の質問が使えます。そのまま面談シートに貼って使えます。

・あなたの業務で、毎週いちばん時間を取られている作業は何ですか。1回あたり何分ですか
・その作業の手順を、新人に渡すつもりで5〜10行で書いてください
・その作業で、例外や判断が必要になるのはどんなときですか
・これまで自分で作った仕組み(Excelの関数・マクロ、kintoneアプリ、GAS、RPAなど)はありますか。いまも使われていますか
・部署の人から、どんなことでよく相談を受けますか
・業務時間の一部を育成と実装にあてるとしたら、いまの業務のどれを誰に渡せますか

業務側FDEが身につけるスキルと道具

業務側FDEのスキルは、コードを書く力より「業務をAIに渡せる形にする力」が中心です。

スキル主な道具(例)3か月後の目安
業務の分解と要件の言語化業務の分解シート、表計算自部署の業務3つ以上を分解シートにできる
生成AIツールの業務利用ChatGPT、Claude、Gemini、Microsoft 365 Copilot など自分の業務の定型作業をAIで回せる
ワークフローの作成Dify、既存の kintone・GAS・Power Automate部署で使うワークフローを1つ運用している
小さな自動化(バイブコーディング)Claude Code など技術側の確認を通した小さな道具を1つ作れる
出力の検証確認のチェックリスト、正解の見本データ誤りの出方を記録し、確認の手順を決められる
運用手順書の作成社内のマニュアル置き場自分がいなくても回る手順書を1本残している

業務の分解と要件の言語化

最初に身につけるのは、業務を手順に分け、AIに任せる部分と人が判断する部分を書き分ける力です。ここが曖昧なままでは「便利だが業務は変わらない」で終わります。次のシートを、対象業務ごとに1枚書きます。

【業務名】
【頻度と時間】週◯回 × 1回◯分(担当◯名)
【入力】何を見て始めるか(メール、申込フォーム、Excel、紙 など)と、その置き場所
【手順】1. 〜 2. 〜 3. 〜(5〜10行)
【判断が要る箇所】どの手順で、何を見て、何を決めているか
【AIに任せる候補】要約・分類・下書き・転記・照合 のどれか
【人が確認する箇所】誰が、何を見て、OKを出すか
【扱うデータの注意】個人情報・社外秘の有無、社外のサービスに入れてよいか
【うまくいった状態】処理時間が◯分→◯分、手戻りが月◯件→◯件

最後の「うまくいった状態」は、作り始める前に数字で書きます。あとで効果を測る基準になります。

生成AIツールとDifyなどのワークフロー

次に、生成AIのチャットで定型作業を回せるようにし、それを部署で共有できる形にします。共有の段階で役立つのが、Difyのようなワークフローの道具です。DifyはLangGeniusが開発するオープンソースのLLMアプリ開発プラットフォームで、ワークフローやRAG(社内文書を参照して答える仕組み)をノーコードで組めます。「問い合わせを分類し、該当する社内規程を探し、返信の下書きを作る」といった手順を、画面上で部品をつないで作れます。

非エンジニア向けのバイブコーディング(Claude Codeなど)

バイブコーディングは、作りたいものを日本語で説明し、コードはAIに書かせて動かす作り方です。Anthropicが公開している社内チームの活用事例では、法務チームが Claude Code で、社員を適切な担当弁護士につなぐ「電話ツリー」の仕組みを試作しています。プログラミングを仕事にしていない人でも、業務を解く小さな道具を作れるようになりました。

ただし、業務側FDEのバイブコーディングは、表の集計と転記、定型のレポート作成のような、部署の中で閉じた「小さな自動化」に絞り、部署の外で使うときは技術側の確認を通します。カトルセでは、非エンジニア向けのバイブコーディング研修も扱っています(「AI駆動開発・バイブコーディング研修」)。Claude Code自体の使い方は「Claude Codeの使い方・導入ガイド」で解説しています。

出力の検証と運用手順書

業務側FDEに強く求められるのは、AIの出力が業務として正しいかを確かめる力です。先の帝国データバンクの調査でも、懸念・課題の1位は「情報の正確性」でした。検証とは、どの項目を、どの頻度で、誰が確かめるかを決めることです。最初の2週間は全件を人が確認し、誤りの出方を記録してから、確認の範囲を絞ります。

決めた手順は、運用手順書に残します。使い方だけでなく、誤りが出たときの戻し方、問い合わせ先、手順書を直す担当者まで書きます。ツール導入だけでは定着しません。使う人を育て、社内に型を残します。手順書は、その型を部署に残すための成果物です。

業務側FDEの最初の1か月を、職種別の研修で始めたい方へ

カトルセの職種別AI研修シリーズは、全9講座・各11時間・36万円/1名(税抜)です。ライブ形式・全コマ演習で、受講者が自分の業務を題材に成果物を作る「AI Lab」の時間を中心に組んでいます。最終回の「AI業務改善体験」では、改善対象の選定から効果の試算・標準化までを自分の業務で通して行います

3か月で業務側FDEを育てる道筋

業務側FDEの育成は、3か月を1区切りにします。目指すのは、「自部署の業務1つがAIを組み込んだ手順で回り、その手順書と効果の記録が残っている」状態です。

業務側FDEを3か月で育てる流れ。研修、自部署での実装、横展開、効果測定の4段階
FIG.23か月で業務側FDEを育てる道筋
時期STEP残す成果物
1か月目STEP 1 研修業務の分解シート、実装する業務1つ
2か月目STEP 2 小さく1つ実装試作品、確認の記録
3か月目STEP 3 横展開運用手順書、利用者の数
3か月目の終わり〜研修後90日STEP 4 効果測定効果の記録、次の3か月の計画

始める前に、上長が2つのことを決めます。1つは育成と実装にあてる時間(例:3か月間は業務時間の2割)で、本人の業務の一部をほかのメンバーに移します。もう1つは、困ったときに相談する技術側の相手(社内の情シスか外部の伴走)です。

STEP 1研修で「業務を分解してAIに渡す型」を身につける

最初の1か月は、研修で型を身につけます。選ぶのは汎用的なAIの使い方の講座ではなく、受講者の職務を題材に、職務に直結した訓練として設計する研修です。講義を聞くだけでは身につかないため、ライブ形式・全コマ演習で、自分の業務を題材に手を動かす研修が向いています。たとえばカトルセの職種別AI研修シリーズは、最終回の「AI業務改善体験」で、業務の棚卸し→改善対象の選定→AIワークフロー設計→効果の試算→標準化を一通り行います。研修の最後に、2か月目に実装する業務を1つ決めて終えます。

STEP 2自部署の業務で小さく1つ実装する

2か月目は、選んだ業務で試作し、実際の業務で試します。最初の1つは、①毎週発生する ②1回15分以上かかる ③誤りがあっても人の確認で止められる、の3つを満たす業務から選ぶと失敗が少なくなります。2週間ほどは従来のやり方と並べて動かし、処理時間と誤りの数を記録します。

STEP 3手順書を残し、隣の業務へ横展開する

3か月目は、試した手順を運用手順書にまとめ、部署のメンバーに使ってもらいます。本人だけが使っている状態では、業務の変化とは言えません。部署で回り始めたら、同じ型が使える隣の業務や他部署の似た業務に広げます。横展開では技術側の確認が要る場面が増えるため、本番に出す条件を技術側の相手とここで確かめます。

STEP 4効果を測り、研修後90日の定着につなげる

3か月目の終わりに、分解シートに書いた「うまくいった状態」と比べて効果を測ります。研修の効果は満足度ではなく、業務の変化で測ります。そして、その変化が続くかどうかは、研修後90日の運用で決まります。使われ方が落ちていないか、手順書が古くなっていないかを月に1回見直し、次の3か月で取り組むテーマを決めます。定着の進め方は「AI研修を実施しても現場が変わらない理由」で解説しています。

業務側FDEがつまずく5つの壁と対策

業務側FDEの育成が止まる理由は、本人の能力より、周りの条件にあることがほとんどです。

壁起きること対策
技術の壁試作は動いたが、システム連携や本番環境の構築で止まる技術側(情シス・外部の伴走)と2人1組にし、本番化は技術側が担う
権限の壁使いたいツールが許可されていない、必要なデータにアクセスできない使ってよいツールとデータの範囲を、開始前に情シス・上長と決める
データの壁必要な情報が紙・個人のフォルダ・メールに散らばっている最初の業務は、データが1か所にそろっている業務から選ぶ
評価されない育成の時間が「余計な仕事」として扱われる上長が時間を業務として確保し、成果を業務の変化で評価する
孤立部署で1人だけが取り組み、相談相手がいない技術側との2人1組に加え、他部署の業務側FDEと月1回成果を共有する

データの壁は多くの企業に共通しており、生成AIを活用する企業の責任者・担当者548名への調査では、社内データが未整備と答えた企業が50.7%ありました。また、技術の壁と孤立はよく重なり、技術側の相手がいないと、試作が動いた段階で止まったまま本来の業務に戻ってしまいます。研修と伴走を組み合わせるのは、この2つの壁を同時に越えるためです。

業務側FDEの評価と処遇:考え方と例

業務側FDEの評価と処遇に、決まった正解はまだありません。社内で役割を作るところから始める会社がほとんどだからです。評価の考え方は1つで、研修の受講や資格の取得ではなく、担当した業務がどう変わったかを見ます。

指標の例測り方注意点
対象業務の処理時間導入前後の1回あたりの時間×頻度確認や手直しの時間も含める
本番運用に乗った業務の数手順書があり、部署で使われている業務の数試作だけのものは数えない
利用者の数・利用率対象業務の担当者のうち、新しい手順で回している人の割合導入直後ではなく、1〜3か月後に測る
手戻り・差し戻しの件数誤りによる修正の件数減らない場合は確認の手順を見直す
横展開した業務・部署の数同じ型を使った業務の数本人が作ったものと、他の人が型を使ったものを分けて数える

処遇は人事制度に合わせて決めます。たとえば次のような形があります。

  • 役割として任命する:「業務側FDE」「AI実装担当」などの役割名を付け、兼務の比率(例:業務時間の2割)と期間を、辞令や期初の目標に書きます。
  • 目標に業務の変化を入れる:上の表の指標から1〜2個を期中の目標に入れます。
  • 役割の定義に公的な標準を使う:IPAのデジタルスキル標準(DSS)ver.2.0(2026年4月16日公開)は、DXを推進する人材を6つの人材類型で定義しています。業務の変革の目的を定め、関係者を調整しながら成果まで導く「ビジネスアーキテクト」の記述は、業務側FDEの役割定義や等級の要件づくりの参考になります。
  • 社外の検定は補助に使う:FDEの検定は2026年に2つの団体が制度を発表しています(比較は「FDE検定は2つある」)。合否より、担当業務の変化を主な評価にします。

よくある質問(FAQ)

プログラミング経験がなくても、業務側FDEになれますか?
なれます。求められるのは、業務を手順に分けて言葉にする力と、AIの出力が業務として正しいかを確かめる力です。試作はノーコードのワークフローやバイブコーディングの範囲で行い、本番のシステム連携やセキュリティは技術側と組んで進めます。
情シスの担当者は、業務側FDEに向いていますか?
向いている場合が多いです。社内の業務改善を回してきた情シスの担当者は、業務と技術の両方の言葉が分かります。ただし、各部署の業務の例外や判断まで知っているとは限らないため、対象部署の業務に詳しい人と組むか、技術側の役割を兼ねる形にすると進めやすくなります。
業務側FDEは、何から学べばいいですか?
自部署の業務の分解から始めます。毎週時間を取られている業務を1つ選び、手順・判断が要る箇所・人が確認する箇所を書き出します。次に生成AIのチャットで定型部分を回し、部署で共有する段階でDifyなどのワークフローに、小さな自動化が必要になった段階で Claude Code などのバイブコーディングに進みます。
業務側FDEがいれば、エンジニアは要りませんか?
要ります。本番運用の設計、システムの連携、権限とセキュリティの管理は技術側の仕事です。社内にエンジニアがいない場合は、外部の伴走や開発会社に技術側の役割を任せ、判断は業務側FDEが持ち続けます。
業務側FDEの育成に、助成金は使えますか?
研修の部分は、要件を満たせば人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)の対象になり得ます。2026年8月3日以降に提出する計画届では、汎用的なAIリテラシー研修は対象外になり、受講者の職務に直結した訓練として設計することが求められます。計画届は原則として研修開始の1か月前までに提出が必要で、研修後の現場での実装(OJT)は対象外です。最終的な可否は労働局の審査で決まります。詳しくは「FDE研修は助成金の対象?」で解説しています。
業務側FDEは、1つの部署に何人いればいいですか?
1つの部署に1人から始められます。ただし孤立しやすいため、技術側の相手と2人1組にし、複数の部署で育てる場合は月に1回、成果を共有する場を作ります。最初の3か月で業務が1つ回り始めたら、その人が次の候補者の相談役になります。

まとめ

  • 業務側FDEは、PalantirのDeployment Strategistに当たる役割で、業務部門の人が自部署の業務にAIを組み込み、使われる状態まで責任を持ちます。
  • 選ぶ基準はAIの知識ではなく、業務を知り、手順を言葉にでき、周りに頼られていることです。技術の部分は、社内の情シスか外部と2人1組で分担します。
  • 研修→小さく1つ実装→横展開→効果測定の3か月を1区切りにし、上長が時間を確保して、成果を業務の変化で評価しましょう。

業務側FDEの育成計画を、研修と伴走の組み合わせで作りたい方へ

誰を選び、どの業務から始め、3か月で何を残すか。職種別の研修で型を身につけ、AI顧問の伴走で自部署の実装と定着までを支える計画を、30分の無料相談で一緒に整理します。社内にエンジニアがいない場合の技術側の役割も、伴走でどこまで担えるかをご説明します

※本記事は、2026年10月2日時点の公開情報に基づいています。調査の数値は各調査・報道の時点のものです。ツールの機能・料金、カトルセの研修・AI顧問の内容と料金(税抜)は変更される可能性があります。人材開発支援助成金の対象になるかどうかは、都道府県労働局の審査で決まります。研修の計画・申請の前に、必ず各社の公式情報と、厚生労働省・労働局の最新資料をご確認ください。

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AUTHOR / 執筆者

この記事の執筆者

K.H

橋本 健太郎

株式会社カトルセ 代表取締役

生成AI研修・AI開発・AI顧問・PM/PMO支援を提供。累計2,000名以上のAI研修を支援し、大手企業の生成AI活用、ローカルLLM/RAG/AIエージェント導入、業務改善プロジェクトに携わる。実務に直結する「使えるAI活用」を一貫して伝えている。